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東京地方裁判所 平成元年(ワ)2726号 判決 1993年2月02日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  請求

一  被告らは、原告に対し、各自金二四〇〇万円及びこれに対する平成元年三月二九日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告社団法人ジャパンケンネルクラブ(以下「被告法人」又は「JKC」という。)は、原告に対し、被告法人機関紙「家庭犬」(以下「家庭犬」という。)に別紙記載一の謝罪文を、同記載二の条件で、一回、掲載せよ。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 被告法人は、各種畜犬の犬籍登録及び有能・優良犬の普及と畜犬の飼育の指導奨励を行い、広く国民の動物愛護の精神を昂揚することを目的とし、地区及び犬種ごとの愛犬家クラブ約六〇〇団体をその社員(正会員)としている社団法人であり、被告芟薮豊作(以下「被告芟薮」という。)は、被告法人の理事であり、被告法人定款一四条四号により理事長として互選されている者である。

(二) 東京南パピヨンクラブ(以下「訴外クラブ」という。)は、昭和四六年三月設立された東京南地区におけるパピヨン犬種の愛好者約一五〇名により構成される法人格のない社団たる愛犬クラブであり、被告法人の社員である。

(三) 原告は、訴外クラブの代表者たるクラブ会員であり、「マダムパピヨン犬舎」と称する犬舎を経営している畜犬業者である。

2  被告法人による訴外クラブに対する懲戒処分

(一) 原告は、昭和六三年五月上旬ころ、訴外クラブ代表者名義で、「社団法人ジャパンケンネルクラブ改革への提言」と題する書面(以下「提言」という。)を作成し、被告法人の社員らに送付した。

(二) 被告芟薮は、同年七月一二日、提言の内容(別表A欄)がいずれも誤認、誤解、曲解によるものであり、特に同欄中傍線を付した部分は罵言、誹謗であり、訴外クラブによる提言の配布行為は被告法人の名誉を著しく毀損するものであることを理由として、被告法人賞罰規程六条一号、七条二号、九条一、二項に基づき、訴外クラブを、被告法人の社員としての権利を昭和六三年七月一五日から昭和六四年七月一四日までの一年間全部停止する旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)に付し、昭和六三年七月一二日付書面で、訴外クラブ及び原告に対し、本件懲戒処分及びその理由を通知するとともに、その旨を被告法人機関誌「家庭犬」一九八八年七・八月号四ないし七頁に掲載して公表した。

二  争点 <省略>

第三  争点に対する判断

一  争点1について

本件訴えは、本件懲戒処分の有効無効ないし適用の適否に関する判断を直接求めるものではなく、その無効又は違法の判断を前提問題として、その結果生じるところの不法行為による損害賠償請求権という具体的権利義務ないし法律関係に関する紛争と構成されている。そして、自律的な法規範を持つ団体内部における当該規範の運用については、内部規律の問題として自治的措置に任せるのが原則であるとしても、それが一般市民法秩序と密接な関係を有する場合には法律上の争訟として司法審査の対象になると解するのが相当であるところ、本件訴えは、本件懲戒処分が、原告の訴外クラブを通じて各種便宜(血統証明書の発行、展覧会への出陳等)を受ける権利を一方的に制約し、原告の営業を困難ならしめ、生計を危うくするという、原告の経済活動や社会生活の基盤を覆す程度の重大な権利侵害を理由とするものであるから、法律上の争訟に当たる事案であるというべきである。

二  争点2について

1  本件訴えが法律上の争訟に当たることは、右において明らかであるが、その中核である本件懲戒処分の違法について判断するに当たつては、団体の自治や自律作用を尊重して、原則的には懲戒権者の裁量に任すのが相当であり、例外的に、本件懲戒処分のなされた手続が著しく正義にもとる場合、全く事実上の根拠に基づかない場合又は内部規律に照らしても、なお処分内容が社会観念上著しく妥当性を欠くものと認められる場合に初めて処分の違法性を問題とすることができるものと解するのが相当である。以下、右の見地から、本件懲戒処分が不法行為を構成するか否かを検討する。

2  本件懲戒処分決定手続の違法性

(一) 〔賞罰規程の無効〕

社団法人の社員の除名に関する規定は、民法三七条六号により定款の必要的記載事項とされているが、これは除名に関する規定が「社員の資格の得喪に関する規定」として社団の根本規則たる性質を有しているためであつて、除名の懲戒としての側面に着目したものではない。そして、除名に至らない程度の懲戒処分は社員の資格の得喪と直接の関わりを持たず、社団の根本規則となるものではないから、法律上、懲戒処分一般を定款で定めることが要求されるものではなく、それを定款で定めるかどうかは当該社団の判断に委ねられているものと解するのが相当である。

被告法人の定款においては、正会員の除名以外の懲戒処分について、その手続的要件、実体的要件の具体的な定めはなく、また、これを規約で定めることは要求されておらず、総会の議決事項とする旨の定めも存在しないのであるから、理事会の広汎な裁量を容認する定款二五条一〇号、三〇条四、五号の趣旨に照らし、除名以外の懲戒処分の手続的要件、実体的要件をどう定めるかは、専ら理事会の判断に委ねられたものと解するのが相当である。

そして、賞罰規程は正に理事会が議決したものであり、かつ、その制定、改廃の都度、「家庭犬」に掲載され、数年に一度は現行規程が同誌に特集され、全正会員、全クラブ会員に配布、周知されており、その規範性も十分に担保されていると認められる。

したがつて、被告法人が昭和六三年三月三一日時点で正会員九四二クラブ(クラブ会員約七万名)を擁する大規模な団体であるのに対し、理事二〇名中、正会員を代表する理事が一六名程度であること(定款一四条)、制度上、賞罰規程が理事会での議決以前に会員の討議に付されず、会員の意見を直接聴くことなく決定されている点にやや手続的不十分さ--違法不当とはいえないが改善の余地がある--が認められることを考慮しても、なお懲戒処分の手続的要件、実体的要件を定めた賞罰規程は有効というべきであり、本件懲戒処分が右規程に基づくことを理由に無効と解することはできない。

(二) 〔弁明の機会を与えなかつた違法〕

私的団体内部の懲戒処分における手続的保障(事前の選知、弁明の機会の提供等)は懲戒処分の基本的条件ということができるが、実際にどのような内容、形式の手続的保障が要求されるかは、結局、当該団体の性格、懲戒処分の内容等によつて異なるといわなければならず、法律上、一般に弁明の機会の保障が要求されているとは解されない。

被告法人においては、除名の場合(定款九条一項)を除き、被懲戒社員に弁明の機会は与えられていないが、懲戒は原則として管轄連合会(原則としてクラブが都道府県単位で組織する。組織規程第三章)、管轄ブロック協議会(連合会が全国一四地域の区分に応じて組織する。組織規程第四章)、中央賞罰委員会及び理事会の議決に基づき決定し、理事長がこれを行うとされ(賞罰規程一一条)、構成の異なる複数の機関の議決を要求することにより、被懲戒社員の権利ないし利益を保護し、慎重に懲戒手続を進めるという方法が採用されており、除名に至らない程度の懲戒処分に関する限り、右のような手続的保障をもつて足りると解するのが相当である。

そして、本件懲戒処分に先立つ昭和六三年五月三〇日開催の被告法人第四〇回通常総会において、原告に発言の機会が与えられ、さらに、同年七月五日の東京南クラブ連合会臨時総会においても、原告は実質的に事情説明の機会を与えられたのであるから、本件懲戒処分が、被懲戒者に弁明の機会を与えなかつたことにより無効となるとの原告主張は認められない。

(三) 〔具体的手続の違法〕

(1) 懲戒処分手続の違法性を検討する場合も、団体の自律権を尊重するため、まずその懲戒処分が当該団体の定める手続的規定に従つてなされたかどうかを判断すべきであるところ、本件懲戒処分は、管轄連合会である東京南クラブ連合会、管轄ブロック協議会である東京ブロック協議会、中央賞罰委員会及び理事会の議決を経て、理事長によつて行われており、定款一一条所定の手続に従つて行われたものと認められる。

(2) なお、右議決をした東京南クラブ連合会臨時総会の召集通知においてはその議題が「東京南パピヨンクラブに関する件」と記載されているが、<1>既に<提言>が昭和六三年五月中旬に各クラブに配布されていたこと(原告第一回)、<2>同年五月三〇日開催の被告法人通常総会において、被告芟薮が<提言>を取り上げ、訴外クラブの<提言>配布は組織運営の妨害に該当し、容認できず、「家庭犬」で理事会の統一見解を公表するなどとして訴外クラブに対する懲戒等の実施を明言していたこと、<3>右召集通知に「今般緊急を要する事項が発生致しましたので、臨時総会を開催する事となりました」との記載もあつたことに照らせば、右通知を受領した者にとつて、「東京南パピヨンクラブに関する件」が訴外クラブの<提言>配布に対する懲戒問題を意味することは明らかであつたと認めることができ、このことは、臨時総会当日、訴外クラブに対する懲戒問題を議題とすることについて、原告を含む出席者から何ら異議が出なかつたことや原告が懲戒問題を連合会長の大友藤夫に一任する旨の採決を採ることに同意したことからも明白である。

また、被告芟薮は、同連合会役員からの要請を受けて右総会に出席したもので、発言に先立つてその旨釈明し、また、同連合会員が被告芟薮の出席をあえて拒否しなかつたのであるから、被告芟薮が出席したことはその決議の効力に何ら影響を及ぼさない。さらに、被告芟薮が東京南クラブ連合会に対し、訴外クラブの懲戒を議決するための臨時総会を開催させようとして強く圧力をかけ、無理やり臨時総会を開催させたとの事実、臨時総会中に被告芟薮が頻繁に発言することにより強引に議事を進行させたとの事実、懲戒問題を連合会長に一任させるよう被告芟薮の巧妙な操作があつたとの事実を示す的確な証拠はなく、これらの事実を前提とする議決無効の主張は認められない。

そして、右臨時総会で、連合会長によつて<提言>の配布及びその方法の不当が指摘され、会員によつて<提言>の内容の正否について論議され、最終的に、連合会長に<提言>問題の処置を一任することについて、原告を含む出席者の過半数の賛成を得たと認められる以上、手続的に瑕疵があつたということはできない。

(3) 東京ブロック協議会及び理事会の議決の際に、訴外クラブないし原告に弁明の機会を与えなかつたことが違法でないことは右(二)で判断したことから明らかである。

(四) 以上のとおりであるから、本件懲戒処分は、その決定手続において著しく正義にもとるとは到底いえず、本件懲戒処分の決定手続に違法は認められない。

3  実質的違法性

次に、被告芟薮が本件懲戒処分の理由に挙げた内容が、原告主張のように真実であり、正当な批判であるか、それとも被告ら主張のように事実に基づかない誹謗であるかを検討する。

(一) 「本部の命のままに動かされ、末端の愛犬家から種々の名目の金を本部に届ける取次窓口でしかない」(第一部分)及び「本部にカネを届ける取次機関」(第四部分)について

(1) 〔展覧会の規制〕

各クラブは、一定回数の展覧会開催を義務付けられており、展覧会を開催する際は、その六か月ないし九〇日前までに開催日、開催地、審査員、賞品(賞状、番号札、ロゼットリボン〔入賞犬に付ける評価章〕、席次リボン等)の必要数等を本部に申請報告し、理事長の承認を得る必要がある(展覧会規程七条、一一条)。また、展覧会における賞品中の一部は、本部取扱いとされ、使用を義務付けられるが、それらの賞品は、代金前納が原則であり、展覧会終了後の支払の場合は延滞料を徴収され、展覧会終了後二週間を経過したときは該当展覧会が取り消され、展覧会未開催による凍結クラブに準ずる措置を受ける(同規程一一条、同規程解説一一項)。さらに、展覧会の出陳目録に掲載できる事項は限定されており、広告はクラブ会員所有の犬に関するもののみ認められ、寄付者の氏名は一覧表に一括掲載すべきものとされる(展覧会規程一七条)。特にFCIショーにおいては、広告の掲載は表紙及び裏表紙の各表裏(合計四頁)に限つて認められ、寄付者名の掲載が一切禁止される(なお、<提言>作成、配布後、すべての展覧会についてFCIショーと同様の規制が実施された。

ところで、被告法人は、純犬種の保護とその質的向上を図ることなどを目的として、各種展覧会を実施しているのであるから(定款四条一、二、五、六号)、全国的に統一された基準に基づき公正で公平な審査を実施し、審査結果を統一的標識によつて表彰公示することが要求されるのは当然の帰結であり、これは単犬種クラブ主催の展覧会であつても同様である。また、各クラブが右目的に適つた充実した展覧会を円滑に開催できるよう諸条件を整備することも重要である。そして、各クラブないしクラブ会員の連帯感や向上心を高めるという展覧会の機能に照らせば、右の諸規制は、いずれも合理的な範囲にとどまつていると解するのが相当であり、そのほかの単犬種クラブ展覧会に対する規制(展覧会規程七条八号ト、一〇条四号、一二条二ないし四項、一三、一四、一八条、四五ないし四七条、組織規程一八、一九、二一条)を考慮しても、クラブの自主性を不当に制限するものとは認められない。(特に、展覧会において、広告料に頼つて興行的な色彩を帯びるという好ましくない事態を解消するため、広告や寄付者名の掲載を規制する必要は強かつたのである。展覧会規程解説一四項)

なお、原告は、その本人尋問(第一回)において、本部に気に入られていないといじわるをされて、申請した開催希望日をそのまま承認してもらえない旨供述するが、日程の調整は連合会又はブロック協議会が行うもので(被告芟薮)、被告芟薮ら執行部がこれに介入していることや不承認の理由が執行部の「いじわる」であることを示す的確な証拠はなく、原告の右供述を採用することはできない。また、本件全証拠によるも、被告芟薮らが営利目的で展覧会を不当に利用していると窺うことはできない。

(2) 〔会費、登録料、発行料等〕

各クラブが、被告法人の社員として、その経費たる会費を負担するのは当然であるが、その際、クラブの経済的負担能力を端的に示すクラブ会員数を基準として会費を負担することは何ら不合理ではない。また、クラブ会員がクラブを通じて被告法人に支払う登録料、発行料等の諸料金は、クラブ会員が被告法人の事業に参加し、被告法人の提供するサービスを利用するための対価であり、これを被告法人がクラブを通じて徴収することは被告法人の運営上当然のことであり、各クラブが被告法人からクラブ取扱手数料を受け取つて日常活動を支える財源とすることができるのであるから、むしろ、クラブにとつて利益になるというべきである。

そもそも、クラブが、その会員からクラブ会費を徴収することについては、被告法人はこれを禁止しておらず(クラブモデル定款二八条一項三号)、原告がクラブ会費の徴収は禁止されているものと思い込んでいたにすぎないし(原告第一回)、クラブが独自の会費を徴収する場合に入会者の減少あるいは他クラブへの移籍により会員を獲得、保持できなくなるので、独自の会費を徴収することが困難であるとの点も、各クラブ間に競争原理が働く以上は当然のことであつて、被告法人の会費徴収やその方法との間に特段の関連性はない。

また、クラブ入会申込書や血統証明書発行登録申込書等の書類に、クラブが被告法人に払い込む会費を算定する基礎となるクラブ会員一人当たりの金額(入会金及び会費に関する細則二、三条)が記載されていたこと、被告法人が、会費をクラブを通じて納付するよう督促するクラブ会員宛の葉書を同法人名で作成し、これを各クラブに送り届けて、各クラブの負担によりクラブ会員宛に発送していることは、従前個人会員制の全国単一組織であつた被告法人が、監督官庁である農林水産省の指導により、昭和六一年に団体(クラブ)会員制に組織変更したという事情に照らせば、必ずしも不当とはいえず、結局、被告法人が各クラブにクラブ会員数を一定数以上に保つことを要求していることを考慮しても、被告法人が、各クラブ独自のクラブ会費徴収を不可能又は困難になるように仕向け、意図的に各クラブを経済的に被告法人本部に依存させるようにしていると認めることはできない。

(3) 〔クラブ会員に対する懲戒等〕

クラブ代表は、クラブ会員を懲戒しようとするときは、事前に管轄連合会及び管轄協議会を経由して被告法人にその旨を報告し、理事長の指示を求めなければならないとされ(賞罰規程一二条二項)、他方、クラブは、右と同様の規定を持つクラブ定款を定め、被告法人理事長の認可を経るよう要求されている(クラブモデル定款一六条、同附則)。

これは、昭和六一年に被告法人の組織変更があり、各クラブに懲戒権限が委譲された直後のことであり、かつ、クラブのモデル定款について、被告法人と農林水産省との間でようやく合意に達したという時期であつたため、自主性が確立されていないクラブがあり、特に正会員として容認される最低水準(クラブ会員四〇名)に近い小規模のクラブにおいては、クラブ会員の相互信頼を破壊せず、公平に懲戒を行うことが困難であると思われたので、クラブモデル定款に基づく懲戒が定着するまでの間、懲戒権が適正に行使されるよう指示、勧告する趣旨で定められたものであり、何ら不当ではない。

また、各クラブは、クラブ定款の制定及び変更一般に理事長の認可を要する(クラブモデル定款三六条、附則)が、公益法人の社員にふさわしい定款と組織を保持するために、この程度の規制はやむを得ないというべきである。

(4) 以上のとおり、被告法人による規制は、クラブの自主的な活動を違法不当に妨害するものではなく、<提言>中の該当箇所を正当な批判ということはできない。

(二) 「理事長や執行部と業者との癒着」(第二部分)について

(1) 〔FCIショーにおける広告の規制〕

「FCI展のドッグフード等に関する広告の規制について」(昭和六二年八月二六日付通達)をもつて、直ちに、被告法人ないし被告芟薮が、中央畜犬事業組合(以下「事業組合」という。)扱い推奨品の「ユーカヌバ」とエッフェム・フーズ・リミテッド(以下「エッフェム社」という。)の「ペディグリー・チャム」を積極的に推奨したものと認めることは困難である。

しかし、FCIショーは、その回数においては、被告法人が関与する年間三〇〇回から四〇〇回の展覧会中、一〇回前後を占める程度とはいえ、被告法人における主要で最も著名な展覧会であり、出陳者や来場者も多数あり、影響力が大きいことを考慮すれば、右通達がある程度他の商品を排除する効果を有することは否定できない。

(2) 〔ユーカヌバに対する便宜供与〕

事業組合は、その組合員たる都道府県単位の協同組合(以下「協同組合」という。)とともに、被告法人がクラブ会員の経済的利益を増進するため、昭和五八年の被告法人通常総会で、それらの設立と活動助成を決議した団体であり、協同組合は被告法人の会員で構成されている。また、ユーカヌバの輸入、販売を手掛けるジャパンペット商事株式会社(以下「ジャパンペット社」という。)は、事業組合ないし協同組合がその指定商品の輸入業務を担当させるために資本の半分を出資して設立し、取締役を派遣して経営に参画している会社であるから、ユーカヌバを取り扱う事業組合及びジャパンペット社は、法律上は被告法人とは別人格であるものの、全くの第三者であるとはいえない関係にある。

また、協同組合に加入した場合、四袋分の価格で五袋を購入できる添付制度を利用すれば、その指定商品を他の並行輸入業者から購入するよりも安価で購入することができ、ユーカヌバとパピー・フードを例に採ると、次に掲げる表のとおりである。

業者名/商品名/ユーカヌバ/パピー・フード

東京都畜犬共同組合

組合員・添付制度利用/二〇八〇円/一七九二円

組合員・添付制度不利用/二六〇〇円/二二四〇円

非組合員/二七二〇円/二三四〇円

日本ライフ株式会社/二二〇〇円/一八〇〇円

ナモトトレーディング&カンパニー/二四〇〇円/一九〇〇円

〔各容量八ポンド一袋当りの価格〕

しかも、組合を通じて購入した商品は、品質管理、供給の安定性の面で並行輸入品と比べて優位に立ち、特にユーカヌバについては、その製造元が日本向けにパッケージを改良したものを購入することができるのである。

したがつて、被告法人が前記通達によつてユーカヌバを優遇したことには合理性が認められる。

(3) 〔ペディグリーチャムに対する便宜供与〕

エッフェム社は、被告法人の事業目的に賛同して、昭和六一年秋以降、FCIショー開催に当たり、新聞、テレビ等の広報活動に積極的に取り組み、会場施設の提供、人的協力、商品の無料提供を実行しており、事業組合にも積極的に協力し、また、他業者から協力を得られなかつた良質なドッグフードの販売についても貢献があつたというのであるから、エッフェム社のペディグリーチャムを優遇したことは必ずしも不当とはいえない。

(4) そして、被告芟薮は、右の諸事情の概要と昭和六二年九月以降のエッフェム社のFCIショーへの特別協力(提供)の具体的内容を前記通達に明記し、これをことさら秘匿したものでもないから、<1>事業組合、共同組合の一である東京都畜犬協同組合及びジャパンペット社が、一時期、被告法人が展覧会用商品等の保管場所として借り受けていたディアマントビル七階の一部を被告法人から転借していたこと(保証金一〇五四万九〇〇〇円は被告法人が負担し、昭和六二年度の賃料共益費年間六二二万三三八〇円については事業組合及び東京都畜犬協同組合が月額一六万円、年額一九二万円を、ジャパンペット社が月額二二万円、年額二六四万円をそれぞれ負担し、これを被告法人が一旦受領した後、被告法人の負担分月額約一四万円、年額一六六万三三八〇円と合わせて貸主に支払つていた。)<2>東京都畜犬協同組合が被告法人の封筒を使用していたこと、<3>展覧会のプログラムや「家庭犬」に、事業組合が被告法人の一部門あるいは被告法人と一体と見られるような記載があつたこと、<4>被告芟薮の子息がジャパンペット社の課長職にあること等を考慮しても、理事長の多額のリベート受領等の業者との癒着を疑い、<提言>において「理事長や執行部と業者との癒着」という表現を用いて批判するについて相当の根拠があつたとは認められない。

なお、原告は、被告芟薮が前記通達に自ら違反した例としても、昭和六二年六月二八日開催の北海道FCIショーで、広告が掲載されていない一般向けのプログラム五〇一冊のほかに、犬に関係のない広告付きのプログラム二〇〇冊が作成されたという二重ブック(二重帳簿)事件を挙げるが、被告芟薮は右展覧会を形式上主催しただけで、実質上は北海道ブロック協議会が担当したものであり(定款七条二号イ、原告第一回)、被告芟薮が特別のプログラムの作成、配布等に関与し、発覚後に事件のもみ消しを図つたとの事実を認めるべき的確な証拠はなく、結局、伝聞や憶測に基づくものといわざるを得ないから、右事件は<提言>を正当化するものではない。

(三) 「理事長、執行が腐敗」及び「JKCを私物化」(第二部分)並びに「JKCの私物化」(第三部分)について

(1) 〔ジャパンペット社との関係〕

被告法人が、その主催するFCIショーにおいて、ジャパンペット社指定のユーカヌバの広告の便宜を図ることについて一定の合理性が認められること、他方、被告芟薮とジャパンペット社との間の癒着を疑うべき合理的根拠がないことは、右(二)のとおりである。

(2) 〔FCIの定款等の公表〕

被告芟薮は、昭和五〇年の理事長就任後、<提言>作成、配布時までの間、FCIの定款の全容や事務局所在地を会員に公表してこなかつた。

ところで、クラブ会員は、FCIショー出陳料、国際犬舎名登録料等をFCIに納付し(展覧会規程一四条一号)、FCIの国際犬舎名登録を受けるなどFCIとの間に利害関係を有しているが、FCIには被告法人が団体として加盟しており、右の各手続はすべて被告法人を通じて行われるものであつて、クラブないしクラブ会員が直接FCIと接触することはなく、また、クラブないしクラブ会員が被告芟薮ら執行部にFCIの定款の内容等を尋ねたにもかかわらず、これを教えなかつたという事実を認めるべき的確な証拠はなく、本件全証拠によるも、原告以外にFCIの定款等の公表を求めている者が存在することを窺い知ることはできず、<提言>中にも右のような事実を指摘する部分は見当たらない。結局、クラブないしクラブ会員の多数がFCIショーでの入賞やFCIの国際犬名登録を超えて、FCIの定款の全容や事務局所在地についてまで重大な関心を寄せているとは認められず、被告芟薮が従来からFCI総会の報告、FCIの歴史や主な活動内容、被告法人のFCI加盟の意義等を「家庭犬」に掲載してきたことに照らせば、被告芟薮が定款の全容や事務局所在地の公表を必要ないと考え、これらをクラブ会員に公表しなかつたことをもつて、被告法人の私物化と評価するのは適切ではない。

また、被告法人がクラブ会員から申請のあつた国際犬舎名をFCI本部に登録し、その登録料をFCI本部に納めているかについて、疑念を生ぜしめるべき的確な証拠はないし、本件全証拠によるも、被告法人がその役員を発展途上国でのFCIショーに被告法人の費用で派遣できるようFCIに加盟しているのが実情であるとは認められない。

(3) 以上のとおり、原告の私物化批判は、合理的根拠のない推理、推定、憶測に基づく不適切な評価といわざるを得ず、原告が、これを<提言>中で表明する権利ないし自由を有しないことは明らかであり、これは、仮定論という体裁を採る場合においても同様である。

(四) 「JKCは“恐怖政治”下」(第一部分)及び「恐怖政治」(第五部分)について

(1) 〔被告法人の実情等〕

被告法人の理事は、総会でその出席者の過半数を得ることによつて選任され、理事長は、理事の互選に基づき選任されるものである(定款一四条二、四項、二四条四項、二五条七号)から、その選任手続に瑕疵があるというのであれば格別、そうでない限り、理事長ら執行部の業務運営は被告法人会員の多数意見に基づくものと擬制される。右のような多数決の採用は、団体の意思決定における民主主義的手法として合理性があり、その結果、少数意見が採用されない場合があることもやむを得ない。

原告は、会員の大多数が営業活動への影響をおそれていいたいこともいわないのが実情であると主張し、その具体例を挙げるが、いずれも本件懲戒処分に関連したもので、その件数も決して多いとはいえないから、右例示をもつて直ちに原告主張事実を認めることは困難であり、理事会が諸規程を全会一致で可決していることを考慮に入れても、原告主張事実を認めるに足りない。

(2) 〔中央賞罰委員会の機能等〕

昭和六三年三月二〇日開催のFCI中部インターナショナルショー(主催被告法人、担当中部ブロック協議会、パピヨン単独システム担当三重パピヨンブリーダーズクラブ)における出陳資格及びハンドリング資格に関する展覧会規程違反行為に対して、パピヨン部会長であつた原告は、その実態を調査の上責任の所在を明らかにし、厳重な処分を求める旨の訴状を昭和六三年三月二八日に被告法人本部に提出した。ところが、懲戒の対象となる三重パピヨンブリーダーズクラブ代表が同年四月一六、一七日開催の本部展覧会に出陳申込みをしていたため、右展覧会前に懲戒問題を処理すべく、被告芟薮が違反行為に直接対応する出陳及びハンドリングの権利を一年間停止する懲戒処分を行つた。

ところで、賞罰規程によれば、展覧会等諸行事における懲戒は、原則としてその主催者が行うものとされており(一三条一項本文)、これは行事を統一的に実施し、非違行為に対し現場で迅速に処分を行う必要があることから定められた例外である。そして、右の趣旨に照らせば、理事長が、同条項により展覧会主催者としてクラブ会員に対する懲戒を行う場合、クラブに対する懲戒の手続を定めた一一条は適用されないと解するのが相当であり、右展覧会主催者の代表者であり、展覧会会長(展覧会規程七条二号イ)である被告芟薮が、中央賞罰委員会に諮らずに懲戒処分を行つたことは何ら違法不当ではない。また、主催者のクラブ会員に対する懲戒処分の範囲については、除名処分を除くほか限定されておらず、所属クラブの総会又は役員会の議決(一二条一項)を経る必要もない(一三条二項の反対解釈)。

したがつて、クラブ会員としての権利の一部を一年間停止する懲戒処分について、中央賞罰委員会の菅原国太郎委員長(当時)がこれを知らず、また、同委員会ないし被告法人理事会の決議を経ていないことをもつて、被告芟薮の恣意的な懲戒権の行使があつたということはできない。

(3) 〔懲戒処分における例外的取扱い〕

被告法人がクラブに対して懲戒処分を行う場合、原則として、中央賞罰委員会の議決その他賞罰規程一一条所定の手続を踏まなければならないが、前記第三の二2(二)のとおり、懲戒処分の内容に応じて要求される手続的保障の程度は異なるものであり、賞罰規程一一条は、合理的根拠があると認められる限度で、例外的な取扱いを許容するものと解するのが相当である。

そこで検討するに、中央賞罰委員会の構成員には地方在住者が含まれており、会議を頻繁にあるいは迅速に開催することは困難であるから、六か月以下の権利停止及び戒告並びに緊急を要する処分について同委員会の議決を経ないで理事会限りで決定し、同委員会に事後報告するという取扱いには一定の合理性が認められ、また、本件全証拠によるも、同委員会が右の例外的取扱いに対し異議を述べたという事実も認められないから、右取扱いをすることが違法不当であるとはいえない。そして、菅原委員長の在任期間中(昭和六一年六月から昭和六三年四月まで)、同委員会に対する懲戒処分の事後報告が行われていたことは菅原委員長自身が認める事実であり、他方、本件全証拠によるも、右期間中に、例外的取扱いの要件を充たさず、原則どおり賞罰規程一一条所定の手続を経ることを要するような懲戒事例が存在したとは窺えないから、中央賞罰委員会が機能していないという批判は当たらない。

さらに、展覧会等諸行事における懲戒の場合で、主催者による懲戒が特に不適当と認められるときは、被告法人理事長が主催者の委任により懲戒を行うことができる(賞罰規程一三条一項ただし書)が、これは、<1>展覧会等諸行事における非違行為、<2>主催者の委任、<3>クラブ会員の除名に至らない懲戒、という要件を充たした場合にだけ認められるものであり、右(2)に判示した同条項の趣旨に照らせば、同条項及びこれに基づく懲戒処分を非民主的、独裁的ということはできない。

(3) 結局、被告法人における懲戒処分の在り方を捉えて、「恐怖政治」という批判を加えることは、事実を誇張し、適切な分析を欠いたものとして相当でない。

(五) 「“まやかしのショー”」(第三部分)について

(1) 〔審査員の審査資格〕

FCIショーにおける審査は、外国から招請された審査員と被告法人の公認審査員とによつて行われるが、一国で資格を認められた審査員については、他国でも資格のある審査員として承認することが国際的原則であり、被告法人の外国審査員招請規定にもその旨定められているから、FCI以外の団体の公認審査員がFCIショーの審査を行うことに何ら問題はない。また、被告法人の公認審査員は、展覧会規程七条二号へ所定の手続で選任されるもので、審査員としての技量はともかく、その資格に疑念を生ずる余地はない。

(2) 〔スタンダード〕

被告芟薮は、各種純粋犬の資質の保持と向上を目的として制定され、展覧会の審査基準でもあるスタンダード(犬種標準)について、原産国主義を採り、かつ、公認犬種が多いFCIのそれに準拠して国際統一を図ることが望ましいと考え、国際会議等でこれを積極的に提案し、また、被告法人内部でも、各犬種部会のスタンダードに対する統一見解を求めるなどしてスタンダードの統一に努めてきたが、いまだ国際的合意は成立しておらず、国内的にも、改良国ないし開発国のスタンダードの影響を受けた犬が多く、直ちに飼養者の理解と協力を得ることが困難なため、FCIスタンダードの全面的採用は達成されておらず、原産国主義を基調として改良国ないし開発国主義を加味した被告法人独自のスタンダードを維持しながら、原産国主義の全面的採用への努力を継続している段階にあるから、国内で開催されるFCIショーの審査は、現在でも、FCIのスタンダードではなく、被告法人のそれに基づき行われている。

したがつて、FCIのスタンダードを不用意に公表するとかえつて混乱を招くおそれもあり(被告芟薮)、被告法人は、<提言>の作成、配布の時点はもとより現時点においても、FCIのスタンダードをクラブやクラブ会員に公表する義務を負うものではない。なお、原告が主張するところの、被告芟薮ら被告法人執行部が、FCIショーでのスタンダードが被告法人のそれであることを故意に明確にせず、一般クラブ会員に真実が分からないようにして展覧会を実施していたとの事実や、自分達の都合に合わせてスタンダードを使い分け、問題があつたときは詭弁を弄していたとの事実についてはこれを認めるべき的確な証拠がない。

(3) 〔チャンピオンカード〕

FCIインターナショナルビューティーチャンピオンカード(CACIB)は、被告法人の発行する仮証の取得を被告法人に報告し、これを一年以上にわたり四人の異なる審査員から取得するという要件を充たした場合に、被告法人からFCI本部への通告により、FCIから本証が送付されるものであり、原告主張は誤解にすぎない。

(4) 〔収支内容等〕

FCIショーの収支内容、海外審査員の費用、被告法人の委員の海外出張費用については、定款四四条に基づき、理事長が事業報告書、収支計算書、財産目録、貸借対象表を作成し、監事の監査と総会の承認を得ており、また、<提言>配布前の被告法人総会において、会員がこの点を明らかにするよう求めたこともなかつたのであるから、これらの内訳明細を公表しなかつたことを理由に、FCIショーの正当性に疑念を挟むのは相当でない。

(5) 以上のとおり、FCIショーは、展覧会規程七条二号及びFCIインターナショナルショー規程等に基づき適正に開催されており、「まやかしのショー」という批判は、その根拠を欠き、失当である。

(六) 「社団法人のなんたるかを心得ていない理事長の思い上がり」(第六部分)について

(1) 〔理事の選考方法〕

被告法人の役員は、いずれも総会により選任され(定款一四条二項)、これを選任した総会決議に瑕疵がない限り、被告法人の構成員たるクラブの多数意思を反映していると解するのが相当である。また、理事は死亡等の場合以外に交代することがほとんどないという原告主張は明らかに誤りであるし、原告が指摘する被告芟薮の「自分は選ばれる立場だから」という発言も、本来は、理事長には理事の選考権ないし選任権がないという趣旨であつたものを原告が曲解したものであるから、原告の批判が正当でないことは明らかである。

なお、被告法人の理事は、理事、監事選考委員会により選考された候補者名簿を総会で承認する方法で選任されており、同委員会は、ブロック連絡協議会がブロック協議会長及びクラブ代表の中から推薦する選考委員に被告法人の理事一名を加えて構成される。ところで、ブロック協議会長は、ブロックを構成する連合会の会長の中から理事会が選任し、理事長により委嘱されるもので(組織規程四八条)、理事長が恣意的に選任できるものではないし、連合会長はクラブ代表の互選により選任され(同規程三一条)、クラブ代表はクラブ会員の互選により選任される(同規程九条、クラブモデル定款二〇条)のであるから、右選考委員会による理事候補者の選任は、終局的にはクラブ会員の意思にその基礎を置くものと認めることができる。そして、被告法人が全国各地の多数のクラブで構成されていることを考慮すれば、右選考方法は、適切で合理的な方法というべきである。右の方法に従つて選任された理事により構成される理事会が諸規程を全会一致で可決し、批判的見解を有する理事が結果的に存在しなかつたという点において問題がないわけではないが、この点、<提言>は、節度を超えた批判に終始しているといわざるを得ない。

また、クラブ代表以外から選任される学識経験者たる理事(定款一四条二項ただし書)の選考に際し、理事長が前記選考委員会からの適格者推薦の要請に応じてこれを同委員会に推薦すること、その際、該当者から内諾をとることに何ら問題はない。

(2) 〔理事会中心の懲戒その他の業務執行〕

被告法人の運営に関して必要な事項又はクラブの権利義務に関する事項を規約で定めるか、理事会に委ねて規程で定めるかは、総会の裁量に任せられているが、総会が規約で定めない事項については、理事会が規程で定めることができる(定款五条、三〇条四項)のであるから、被告芟薮ら被告法人執行部が理事会の権限を拡大解釈しているとの批判は当たらず、規程その他の理事会の決定に違反した場合で、それが懲戒事由(賞罰規程六条)に該当するときに懲戒されるのは当然である。

原告は、規程による運営には社員たるクラブの総意が反映されていないと主張するが、多数のクラブが特定の事項を定款や規約で定めるのが適切と判断する場合は、所定の手続(定款二六条一号、二五条六号)により定款を変更し、あるいは規約を制定し又は改廃することができるのであるから、このような手続が行われていない以上、被告法人の多数意思は、当該事項を専ら理事会の裁量に任せたものと考えるべきであり、右主張には根拠がない。

そもそも、大規模団体において、業務執行に関する意思決定を適正な手続に基づいて選ばれた少数人数からなる業務執行機関に委ねるのは通常のことであつて、それは公益法人であつても例外ではなく、業務執行に理事長ら執行部だけが関与するというのは何ら不合理ではないし、意思決定に際し、クラブないしクラブ会員の希望や意見を事前に聴取するなどの手続が当然に必要とされるものでもない。

(3) 〔組織改革の提言〕

原告は、<提言>作成の直前に、被告芟薮に対し<提言>とほぼ同旨の申し入れをしたほか、<1>被告法人の社団法人日本社会福祉愛犬協会への融資が疑われた件、<2>被告法人の事業組合の債務を保証した件、<3>東京都畜犬協同組合が被告組合の封筒を使用していた件、<3>展覧会のプログラムや「家庭犬」に、事業組合が被告法人の一部門あるいは被告法人と一体と見られるような記載があつた件等について被告芟薮に是正を申し入れ、他方、スタンダードに関する論文を発表したり、展覧会審査員の技量不足を指摘したり、展覧会における懲戒を申し立てたりしてきたが、これらが、組織の改革の提言という評価に値する建設的意見であつたとは認められない。

(4) 以上のとおり、理事長の思い上がりという批判が適切でないことは明らかである。

(七) これまで検討してきたとおり、<提言>の重要部分のほとんどは合理的根拠に基づかず、かつ、その表現方法においても妥当性を欠いていたといわざるを得ない。

したがつて、被告芟薮が理事長として行つた本件懲戒処分は相当の根拠があるということができ、また、一年間の権利停止が社会観念上著しく妥当性を欠くものとも認められないから、原告の<提言>作成、配布の目的がどのようなものであつたかを判断するまでもなく、本件懲戒処分に実質的違法はないというべきである。

4  よつて、本件懲戒処分は不法行為を構成しない。

三  争点3について

1  〔南シェルティークラブへの入会〕

原告は、昭和六三年七月初旬、東京南シェルティークラブへ入会を申し込み、同月一四日、同クラブ代表の梅田、東京西家庭犬クラブ代表の西山久栄とともに被告法人本部に赴き、池内好雄事務局長(以下「池内局長」という。)に対し、入会申込書及び入会金等六〇〇〇円を提出した。池内局長は、これを受領し、翌一五日に一旦は右入会金等の収納手続をしたが、訴外クラブが本件懲戒処分に付されるという特別な状況下にあつたことから、原告の入会について東京南シェルティークラブ内の意思統一が図られているかどうかが気になり、同クラブの斉藤元広幹事長に対し、原告の入会申込みの事実を知つているか否かを問い合わせたところ、知らないとの回答があり、同クラブ内で了解が得られていないことが確認されたので、梅田に電話をかけ、後でもめたりしないように同クラブ内で相談するよう指示し、入会申込書及び入会金等を梅田に返却し、後日、梅田から原告にこれを返却した。

右事実をもつて、被告法人が原告の他クラブへの入会を違法に妨害したと認めることはできず、ほかに被告芟薮が原告の他クラブへの入会を違法に妨害したと認めるべき的確な証拠はない。

2  〔北レディスブリーダーズクラブの会員資格の継続等〕

原告は、北レディスブリーダーズクラブの会員でもあつたので、昭和六三年一〇月ころ、同クラブを通じて血統登録申請をするとともに、同年一一月で会費切れになるので継続手続をしようとして、同クラブ代表の長沢を訪ねて血統登録申請書類を提出し、継続会費を支払つた。右書類と会費を受領した長沢は病気であつたため、それを事業組合理事長の星三光(以下「星」という。)を通じて池内局長に提出したが、その際、書類にクラブ印が押されておらず、クラブ印自体が申請書類と一緒に袋に入れてあつたので、池内局長は、同クラブないし長沢の真意確認のために書類等を返却することにし、その二、三日後、星を通じて長沢に返却し、長沢から原告に書類が返却された。

ところで、被告法人の通常の取扱いでは、書類の不備の補正、訂正は、一旦受け付けた上で調査課から不備な点を連絡して補正、訂正を求めることとしているが、本件懲戒処分の発効という特別の事情のもとで生じたクラブ印の押捺を欠く書類とクラブ印自体とを同封して提出するという異常な事態について、右の通常の取扱いをしなかつたとしてもこれはやむを得ないものというべきであり、被告芟薮ないし被告法人が違法に原告の権利を侵害したとはいえない。

なお、原告は、星と被告芟薮及び池内局長との交渉過程や星が長沢のもとに書類を持ち帰つた経緯を知らず、原告主張は、長沢からの伝聞又は推測に基づくものにすぎない。他方、長沢も、被告芟薮又は池内局長と直接接触したわけではないから、長沢作成の甲第八号証をもつてしても、右認定事実を覆すことはできない。

3  〔東京西スター愛犬クラブ主催展覧会における出陳〕

原告主張の出席拒否とは、具体的には昭和六三年七月二五日開催の東京西スター愛犬クラブ第一回マッチショーに出陳しようとしたところ、原告の所有犬は審査できないとして拒否されたことを指すようであるが、これは、原告が北レディスブリーダーズクラブ会員としてではなく、訴外クラブ会員として申し込んでいたために拒否されたものであるから、被告芟薮ないし被告法人の行為は何ら違法でない。

4  さらに、<1>訴外クラブの役員(原告を除く)の権利行使に対する妨害等、<2>訴外クラブの有効会員数を零とするマスタリストの作成、<3>訴外クラブの役員以外の一般クラブ会員の権利行使の拒絶等、<4>「家庭犬」の訴外クラブ会員に対する送付停止、<5>継続会費納入の拒絶、<6>訴外クラブ会員に対する他クラブへの移籍、役員辞任の働きかけから、原告主張の各事実を推認することもできず、結局、賞罰規程解説の有効性について判断するまでもなく、被告らの不法行為責任を問うことはできないというべきである。

四  以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 沢田三知夫 裁判官 片野悟好 裁判官 菅家忠行)

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